郷土料理の魅力を海外へ
 JAPAN’S TASTY SECRETSの制作にあたり翻訳・監修を担当したアダム・フルフォード氏(フルフォードエンタープライズCEO)が、海外へ伝えたい日本の食の魅力について語りました。

[平成21年6月9日、農林水産省での記者発表より]


 

■日本の食との出会い ―カツ丼に魅せられて

 1981年に来日して28年になりますが、日本は大変発見の多い国です。

 食文化も例外ではありません。
 例えば、日本にきて初めて出会った「カツ丼」。イギリスにも豚肉料理はありますが、カツ丼のようなものはありません。こんな美味しいものが世の中にあるなんて、と、正直ショックだったんです。そういうショックが続きました。焼き鳥、とんかつ、天ぷら、・・・毎日のように新しい料理に出会いました。
 また、料理を出す店も日本にはたくさんあります。居酒屋、炉辺焼き屋、しゃぶしゃぶ屋、ラーメン屋、そば屋、牛丼屋、・・・本当にいろいろあります。そのそれぞれの店に入って、それぞれ新しい発見ができるという国が日本なのです。
 昔、行きつけの飲み屋がありましたけど、そこで初めて食べたのが「アンキモ」。それからカブやダイコンやハクサイの漬物、刺身、・・・毎日のように新しい食べ物に出会うことがでたのですが、その店で特に印象に残っているのが「しめ鯖」。私はイギリスの地方で生まれたのですが―デボン州というところです―、デボン州でも鯖は獲れますけど、しめ鯖で食べたことはありませんでした。しめ鯖をつくるのは、それほど難しいことではないかもしれませんが、そうすることで非常に美味しい食べ物になることが、私にとっては大きな発見でした。


アダム・フルフォード氏

■食の「訓練」ができる日本

 その後も、例えばデパ地下のようなところに行けば、その素材の豊富さに驚き、結婚してからは―妻は日本人ですが―、家庭料理の豊富さにも驚かされました。
 どんな料理かと言えば、たとえば味噌汁。もちろん店でも食べたことはあったのですが、妻が作るのはやはり特別です。それに、焼き魚とか、お鍋、おでん、ちらし寿司、照り焼き、お正月のおせち料理とお雑煮、・・・非常にバラエティに富んだ料理を日常的に食べることが日本の家庭料理の特徴のひとつだと思います。

 もちろん、私の口に合わない料理もあります。例えばこの20年くらい戦ってきたのが「塩辛」。日本酒や焼酎と一緒に食べるものとして、なんとか食べられるようにはなりましたが、まだ好物とは言えません。「納豆」もやっと納豆巻きとして食べられるようになってきたところです。―それでも今は食べられないものはほとんどありません。

 これは、日本、いろいろなお店、そして妻のおかげで、料理に対して訓練されてきたのだと思っています。イギリスでは、このような訓練はできないですね。もちろん、珍しい料理を食べることはできるかもしれませんが、イギリスの一般的な料理、家庭料理は、日本ほどバラエティに富んでないのです。

 ―結論を申しますと、日本人は食に対して非常に積極的に工夫する国民だと思います。栄養的にもバランスのとれたものが多いです。今回の冊子に載っている郷土料理はそれを象徴しているものだと思っています。


■本当の日本と日本食へのチャレンジ ―この冊子で伝えたいこと

 英語版の制作にあたって特に重点をおいたのは、生きた言葉を使うことと、自然に郷土料理に興味がわくように工夫することでした。

 外国人は食べ物に対して保守的に考えている人たちが多いと思います。ですから例えば最初のほうに「佐世保バーガー」「神戸牛ステーキ」「宇都宮餃子」などを紹介しています。こういう料理は、保守的な外国人にとっても食べることが想像しやすいのです。後編になると「本当にこれは食べられるものなのか」というような料理が出てくるのは確かですけれど、まずは神戸の牛肉が美味しいということを自分で確かめてみて、次にもう少し変わったものを食べてみてもいいかな、というふうに考えるのではないかな、と、なるべく違和感なく読み進めることができるようにしてみました。特にイントロダクションの部分は、そうした保守的な外国人を想像しながら書いています。

 日本料理が非常にバラエティに富んでいることは、実は自然とのつながりが深いことも意味していると思います。
 日本の自然は特別です。雨が多い国ですし、水が豊富な国ですので、いろいろなものが栽培でき、同時に非常に厳しい自然でもあります。ですので、そういう自然の中で作物を育てる人にとって、それを使った料理に対するプライドがあると思う。自然と戦いながら作ってきたというプライドです。そしてその地域に住んでいる人たちもそのプライドを共有していると思います。
 初めてそれらを食べる外国人にとっては、必ずしも美味しいものばかりではないと思いますが、しかしそれは日本で生き残っている料理として認めなければいけません。料理として問題があるわけではまったくないのです。そういうことがこの冊子を読むことで分かると思いますし、外国人も安心してこれらの料理を食べることができると思います。イントロダクションの中では、そういうチャレンジ精神が湧いてくるように、「あなたも食べてみてはいかがでしょうか?」というふうな言い回しを使っています。

 また、海外の人たちは日本食はヘルシーな料理という捉え方が多い。例えば、料理ではありませんが、緑茶。イギリスでは最近、コーヒーと同じように緑茶をオーダーする人が増えてきました。先日、イギリスに帰ったら、私の家族も緑茶を飲んでいて驚いたものです。以前は緑茶なんてまったく飲まれていませんでしたが、今は例えばホテルのアフタヌーンティーとしても飲む人が増えています。
 ただし、あくまでもアフタヌーンティーとしてで、日本での緑茶の飲まれ方とはちょっと違います。同じように、寿司についても100%日本の寿司そのものを食べる人は少ないと思います。
 このような点も、この冊子を通して本当の日本を知ってもらえればと思っていることのひとつです。

 この冊子にでてくる料理で私のおススメといえば、「ずんだ餅」とか「わんこそば」とか、日本にしかないもの。また「横須賀海軍カレー」は、その歴史の面でも面白いし、「きりたんぽ鍋」は東北の文化を感じることができます。チャレンジ精神の話にもどれば、例えば「くさや」みたいなもの。私もはじめて食べたときは、「どうかな?」と思っていたのですが、今は八丈島に行くといつも芋焼酎といっしょに美味しく食べています。

 難しいと思うけど、「頑張って一度食べてみて」といいたいのです。

 そして、もしかすると、それが自分の国の食文化について見直すきっかけにもなるのではないかと思うわけです。


冊子を手に農水省・田野井課長と


アダム・フルフォード氏

1957年、イギリス・デボン州生まれ。ノッティングハム大学卒。
1981年に来日後、語学スペシャリストとして数々の翻訳、ナレーション、番組制作に携わる。
現在、フルフォードエンタープライズCEO。
<主な業績>
NHK「英語でしゃべらナイト」「えいごであそぼ」英語監修、台本翻訳
NHK「サイエンスZERO」「美の壺」英語版の制作
Convention Destination Japan」「Japan: The Ultimate Incentive」原稿制作
日本の国際貢献紹介番組「Access Japan」プロデュース
INVEST JAPAN!」「愛知万国博覧会2005」小泉前首相英語指導

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